kigokoro.の木のゆびわをフォトウェディングにお選びいただきました
こんにちは。
kigokoro.として作家活動をしております小林 祥大(コバヤシ アキヒロ)と申します。
お知らせや製作の履歴とは違い、一からブログを書く事に慣れていませんので読みづらい点はご容赦ください。
今回は「寄木で和柄な木のゆびわ」をテーマに展開するkigokoro.の指輪をフォトウェディングにお使いいただいたお客様より素敵なお写真をいただきましたので、製作の背景や指輪に込めた想いも交えてエピソードトークをさせていただきたく存じます。
※今回の記事はお客様よりお写真の掲載・記事化の許可を得ております。無断での転用は固くお断りさせていただきます。
目次
フォトウェディング
そもそもフォトウェディングってなんぞや?という方のために簡単なご説明をいたします。
「結婚式で撮る写真のことでしょ」と思いがちですが、それは「ウェディングフォト」と呼びます。
「フォトウェディング」とは式を挙げずにタキシードやドレス、和装などの婚礼衣装を着て写真撮影のみを行う婚礼スタイルの一種です。
費用面とか日程とか色々メリット・デメリット等あるかと思いますが、私が思うに「写真を撮ることを前提・主題とした流れ」を構成するため素敵な一瞬を最大限に切り取ることが出来るのが一番の利点かと存じます。
とはいえ、私自身 結婚をしたことがありませんので比較等出来ないので完全な主観ですが…
閑話休題 早速お客様からいただいたお写真をご覧ください。
お客様より頂戴したお写真
先ずは定番 左手の薬指に指輪を嵌めていただいたご様子。
とても優しい雰囲気が伝わってきて見るたびに胸が暖かくなります。
私には何も分かっておりませんが、お二人の間には良いこともそうでないことも含めてたくさんの瞬間があってここに辿り着いたんだということだけは分かります。
アウトフォーカスで袴羽織と朱のお着物が映えていますね。
kigokoro.の指輪は和柄をモチーフにしていますので和装との相性は抜群です。
お選びいただいた「両子持縞」もストーリーを持った和柄ですがそのお話は後ほど…
こちらは木製のリングケースに入った状態でのカット。
少し暗めのトーンなので分かりづらいですがkigokoro.の焼印もしっかりと見せてくれています。
このケースは現在のプレポリマーによる防水仕様になる以前に、「手を洗う時などに気軽に外して保管できるようにポケットや鞄に入れられるサイズ」をコンセプトに私自身が設計し、韓国の工場で量産してもらったものです。
無垢の状態で仕入れて焼印は一つひとつ私が手作業で入れていますので個体差があります。
結婚式などでは華やかなリングピローに乗った貴金属製のキラキラな指輪というイメージがありますが、こういったのも渋くてよろしいかと。
最後はペアで。この角度で指先同士を重ねるとハート型になるんですね。親指を添えているおかげで立体的なハートに見えます。
考えすぎですか?
しかし、立方体に近いいわゆる普通のリングケースでは見られない画ではないかと思います。
こちらのお写真を拡大していただくと、指輪の表面が極めて平面で鏡面に仕上がっているのが判るかと存じます。
しかし実は一度 仕上げ直しをさせていただいていたのです…
塗装修正
この指輪は昨年の8月にご注文いただき、納品したものです。
kigokoro.はよく勘違いされていますが「個人による副業」の活動です。
製作やデザインについて教えを乞うた師と呼べる存在もおりませんし、調べた限り後記する作り方で柄を嵌め込む手法を主としている作家も他に存じ上げません。
それ故 日進月歩の革新の最中におり、新たなアプローチを発見するとクオリティが格段に上がります。
ご購入をお考え中のお客様に置かれましてはそのような状況をお伝えすると困惑されるかと存じますが、必要と判断した場合にはこういったサポートも柔軟に対応していきたいと心掛けております。
納品時の製作
先ずはこちらの指輪の製作時の様子から振り返ってみようかと存じます。
文面の都合上、概略的なご紹介になりますので当時書いたこちらの記事から全貌はご確認ください。
今回は塗装のお話がメインなので木工パートは割愛しますがどうしてもここだけ…
こちらは切り出して寄木した材料です。
真ん中が両子持縞部材、左右はそれぞれの内巻き部材です。
両子持縞(りょうこもちじま)という和柄は中央に太い線、その両側に細い線を配した縞模様でそれぞれを親と子と見立てて転じて、家庭の幸せを願う柄として愛されてきました。
kigokoro.はこれをそのまま使うのではなく、斜め45°にカットして組み合わせてデザインにしています。
そして今回は「双子指輪」という取り組みで、可能な限り一つ分の部材から二つの指輪を作る製法を採用しました。
材料の長さに限界があるため号数の組み合わせにかなり依存してしまい、表立ってご案内していませんし、今回は双子指輪の適用外の組み合わせだったのですが「なんとなく」そうしました。
ご注文が入った時点では「あーペアだなー」とは思いましたがフォトウェディングへの使用の件も知りませんでしたので、完全に偶々です。
初期の塗装
プレポリマー塗装 初期の工程は、現在のようなモールド充填式ではありませんでした。
指輪の内側にぴったりとマスキングテープを巻き(隙間が出来て意外と難しい)、マスキングテープごとたっぷりと盛るようなイメージで塗ります。
一度でここまで盛ると垂れるので、この頃は3回くらいに分けて塗っていたと記憶しています。
マスキングテープを外すとこんな感じに耳が残ります。
モールド充填式とは違い、マスキングテープ上に指輪の高さ以上に盛ることが難しいため全体的にラウンドしたような見た目です。
これを成形していくのですが、先ずは耳の部分を削って幅を決めます。
(現在と比べて)薄いので、研磨時の紙やすりの抵抗によって折れたり密着不良の原因となっていたと今では思います。
幅出し完了。
よく見ると細かい気泡がたくさん出ています。
塗って終りならばこういった気泡も作風と言えなくもないですが、削った断面に気泡があるとクレーターのように凹みが出来て美しくありません。
ここからは表面の成形研磨。
出来るだけ平面を出して鏡面に仕上げていく工程です。
400番〜10000番まで8段階の紙やすりを使用していました。
現在はもうちょっと増えて12段階です。
アクリルの角材にクッション付き両面テープで固定して使います。
現在でもアクリルがアルミ切削に変わったこと以外は一緒ですね。(アルミは重いので不要な手の力を抜いて作業できるため効率がいいです)
クッションを付けるのは、まだ完全に均一な角度で当てることが出来ないからです。
単一の面を作るためには一度でも違った角度でやすりを当ててはいけないので、技術不足を補う策ですね。
面が出ました。
この塗装方法ではこれが限界です。
下の方に一部やすりが当たっていない(白くなっていない)部分があります。
均一に盛れていないのでこういった塗料の少ない部分には研磨を入れることが出来ません。
ここに合わせるとオーバーして塗料のない部分が出来てしまうので、これ以上は無理と判断しました。
そのまま番手を上げていき、コンパウンドまでかけて完成です。
鏡面は美しいですね。特に内側は今の自分でも及第点をあげられる出来だと思います。
しかし角が弱いです。やすりを当てることが出来ないほど塗料が少ない箇所かありましたので、そこが起点となり塗装のひび割れ・剥がれが起きました。
色々とマイナス点を挙げましたが、これらは全て今の自分が振り返ってのことです。
当時の自分にとってはこれがベストでした。
それを否定するつもりは全くありませんし、中途半端なものを納品したつもりもございません。
再度のご注文
約3ヶ月後、同じお客様からリピートのご注文を賜りました。
備考欄に記されていた内容がこちらです。
再度購入させていただきます。 以前,購入した指輪もすごく気に入っています。 ずっと付けていることで、レジン部分がはがれてきています。 レジンの加工を自分でできたらなと思うのですが、レジンのお勧めを教えて頂くことは可能でしょうか?
この頃には現在のモールド充填式塗装に移行していたため、以前の方式の欠点からこういう事態があり得ることも想像しておりました。
しかし「ご自身で修正を」という点に愛着を感じ、塗装修正を申し出た次第です。
この時にメールでお伝えいただいた
本当に気に入ってるので、付けてない日があるのはとても寂しいので(新しい)商品が届き次第発送したいと思います。
というお言葉は作家冥利に尽きると申しますか、心の底から震えました。
返送時に同封いただいたお手紙に
2人にとって結婚指輪になります。
というお言葉に更に身が引き締まりました。
作家活動をしていて私が一番嬉しく思うのが「直して欲しい」というお言葉です。
・壊れるくらい使ってくれた
・直したらまた使ってくれる
こういったことが間接的に伝わるので、やはり嬉しいです。
良くなかったな、という罪悪感もありますが前記の通りその時その時のベストを尽くしているつもりですので後悔とかはありません。
塗装修正へ
この時期は11月ということもあり、恐らくクリスマスプレゼントとしてのご注文が重なり多忙を極めており、製作の合間を縫って修正をしていたため写真が撮れておりませんでした。
工程としては同一ですので、2度目のご注文分の写真にて3ヶ月前との違いをご紹介いたします。
モールド充填式プレポリマー塗装
例によって木工パートまではばっさりカットしまして、塗装工程からご紹介です。
指輪のデザインは同一で、内巻きに濃鼠(黒)と差し色に雀茶(茶)を使用したモデルです。
先ずはモールドを製作していきます。
号数の都合もありますし、手作業による製作なので個体ごとにモールドを作ります。
木の丸棒にマスキングテープを巻き付けて、最後にセロハンテープを一周巻き、これで指輪がピッタリと隙間なく嵌るように調整します。
プレポリマーは紙のマスキングテープには食いついてしまいますが、セロハンテープには食いつかないのでこれで硬化後に取り外せるようになります。
一気に充填すると気泡の出る位置を操作できませんので、最初は指輪の高さの半分ほど(0.75mm程度)を狙って指輪から1mm離した上下にマスキングテープを重ねていきます。
1mmのマスキングテープを指輪に沿わせて巻き、その隣に本命のマスキングテープを重ね、巻き終わったら食いつき防止のために1mmマスキングテープを剥がします。
マスキングテープの厚みは0.07mm程ですので12周巻いて0.84mm程度の壁としています。
11周の0.77mmの方が近いですが、この後の工程が済んでから1周剥がして追加で巻き直すのでその分の1周多く巻いているという訳です。
幅方向へのプレポリマー充填。
片側ずつ乗せて硬化しますが、充填後に表面を慣らしますのでナイロンブラシを使用しています。
作家仲間のお友達に教えていただいた道具です。大活躍です。
表面にも軽く盛っておきます。
この頃はここもナイロンブラシでしたが現在は8号の平筆を使用して塗り付け→硬化を3回繰り返しています。
この時、幅方向へも垂らすように塗り付けるため、壁としているマスキングテープにもプレポリマーが付着するために1周多く巻いていた訳です。
表面の硬化が終わったら壁を追加していよいよ本充填です。
塗膜は最終的に0.25mmくらいにしたい(木部が1.5mm+内側0.25mm+表面0.25mmで2mmを狙う)ので、プレポリマーの収縮や研磨代を加味して0.4mm程充填できる合計27周にします。
先ほど12周巻いて1周剥がしたので11周、追加分は16周です。
数えにくいので最近は前半13周-1周と後半15周にしています。
上下ともに規定の回数巻き終わったらその上から梱包用の透明テープを3周巻いて充填用の窓を開ければモールド完成です。
梱包テープはセロハンテープよりも硬いので、それを更に3周巻くことでプレポリマーの収縮にもある程度耐えることが出来ます。
しっかりと硬化させたらモールドから取り外して内側の塗装へ。
こちらも写真ではナイロンブラシですが現在は8号平筆です。
木工時にご注文サイズから2号上で製作していますが、塗装上がりでは逆に2号下になるまで重ねます。
つまり4号分の塗装を作っていく訳ですね。
指輪の内径というのは1号あたり0.33mm増減する(3号で1mm)ので、1.33mm分の塗装です。
表面に対して過剰に見えますが、画像の通り内側はモールドなしのフリー塗装なので研磨幅にかなりの余裕を見ています。
丸棒にクッション付きの紙やすりを巻いて内側の研磨。
400番から10000番まで掛けますが、2000番以降の研磨力はさほどでもないので1200番くらいまででご注文いただいたサイズになるように調整しながら番手を上げていきます。
400番でご注文サイズにすると当然その後の番手で研ぎ減りして泣きを見ることになります。後先考えて作業しましょう。
ちなみにこの後 丸棒に取り付けて表面研磨に入りますが、取り付け時に内側に引け傷を付ける可能性があるので3000番以降は表面の研磨が終わってからです。
表面の成形研磨。
こちらも凹凸を取るために400番で取り切ると研ぎ減りで最悪オーバーしますので節度を見極めて作業します。
以下、ざっくり経過を見てみましょう。
1200番終了時
凹凸は無くなりましたが全体的に曇っていて木目も見えません。
3000番終了時
塗装に透明感が出てきて木の色味の違いが良く判るようになってきました。
10000番終了時
鏡面になりました。3000番で止めた内側との違いが判るかと思います。
ここまで光らせると塗料を吸い込んだ木の色(濡れ色と言います)で光の角度で木がキラキラ輝くようになります。
幅決めと角丸め、コンパウンド研磨を経て完成になりますが、木部の周辺に気泡が無いのがお分かりいただけるでしょうか。
そしてようやく、完成です。
前記の「初期の塗装」とは平面の質と均一な角といった点で品質の向上に繋がりました。
終わりに
8月の初回ご注文から11月の塗装修正のご依頼、3月のお渡しと大分時間が掛かってしまいました。
少しだけ言い訳をさせていただくと、本来であれば1ヶ月早い2月の半ばにはお渡しが済んでいる予定でした。
しかしながら丁度発送を予定していたタイミングで私自身が脳梗塞で緊急入院となってしまい、2週間半動けなくなってしまった為にこのような遅延を齎してしまいました。
詳しい事情やスケジュールを訊いていたわけではございませんが、偶々フォトウェディングの予定にも間に合いこのような素敵な体験をさせていただけたこと、心から光栄に思います。
3年前に自己存在証明として始まったkigokoro.は今や、人様の人生の貴重な一ページを飾る存在にまで昇華しました。
これからも更なる技術革新とともに、この心の震えを忘れずに一作一作に妥協なく真摯に向き合うことを改めて誓います。
最後までご覧いただき誠に有難うございました。
kigokoro.は現在、新規ラインナップへ移行のための準備期間として受注を停止しておりますが、再開の暁には皆さまからの変わらぬ応援を賜りたく、心よりお願い申し上げます。
2023年4月19日
寄木で和柄な木のゆびわ
kigokoro.
小林 祥大
kigokoro.
自然の木々を基調とした和柄を寄木でデザインした「ベントウッドリング」をハンドメイドして販売おります。ゆびわの「わ」は、「輪」であり「和」でもあります。人との縁が途切れることのない永遠の図形のよう、円に想いを込めてお届けします。カスタマイズも承りますので、贈り物にはもちろん、人と違うファッションをしたい人にもおすすめです。
屋号 | kigokoro. |
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住所 |
〒398-0004 長野県大町市常盤 シャーメゾン大町A101 |
営業時間 |
【月~金】17:30~21:00 【土日】9:00~18:00 |
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代表者名 | 小林 祥大 |
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